いつのまに、私はこんなに

 「ねぇ、ねぇ〜?この人マジかっこよくない〜?」
 「え〜?そう?こっちの人のがいいよぉ〜」
 「あんたおかしいんじゃない?その人なんか猿じゃん?」
 「はぁ〜?趣味の悪いあんたに言われたかないね」
 「ね!沙苗はどう思う?」
くすくすと楽しそうに話している彼女たちが、あたしにふってくるだろうとは思っていたが、
やはり自分に質問が向けられあたしは困ってしまった。

 授業が始まる10分前。
昼休み終了を告げる予鈴がなる寸前の教室は、どこのグループも騒がしい。
もうお弁当などとっくに食べ終わったみんなは、雑誌を広げてのおしゃべり、
足を組んで黙って漫画を読んでたり…に、次の次の時間の小テストの勉強をしてい人もいる。
クラスをぐるっと見回した後、あたしはあたしに質問を向けた2人の彼女たちに視線を戻す。

 あたしには、亜里紗が「かっこよくない?」と言った人も、
彩乃が「いいよぉ〜」と言った人も同じように猿に見える。
亜里紗は彩乃の趣味をおかしいといったが、亜里紗の趣味も相当おかしいと思う。
だが、その猿2人組が、
『渋谷で見つけたイケメン特集』のインタビューなんかに答えてるもんだから、
この雑誌自体相当趣味が悪いといえるだろう。
こうやって、妙な流行だかなんだかわからない感覚を、"いい"と思い込まされてしまうんだろうな、
と、亜里紗と彩乃をなんだか気の毒に思った。

 『どこがいいのかはっきり言ってわからない』
そう素直に言えたらどんなに気持ちがいいだろう…と、こんなときいつも夢のように思う。
しかし、そんなことを言おうものなら、あたしが明日からどうなるか、わかったものじゃない。
1人で食べるお弁当、1人ぼっちの教室移動…気まずい遠足や校外見学のバスの席決め。
それらに比べれば、ここでつかなければいけない嘘なんか、タカが知れている。

 「あ、えっと…どっちの人も、まぁまぁいいんじゃない?」
思っていない、ということがバレないよう細心の注意を払って言う、あたしの"せりふ"。
なんとかうまく答えなければ…
そしてまたこうして、あたしは思ってもいないことを口にする。
こんなにも嘘ばかりつかせていたら、この舌に何か変なものでも生えてきても…
決しておかしくはないだろう。

 こうやってあたしは自分の考えを押し殺し、人に合わせることで、
自分の居場所を守ってきた。
これからも、きっとこうしていくと思う。
こんな自分が好きかと聞かれれば大嫌いだけれども、
こうすることしか、あたしが学校という場所で生き残る道は、ない。

 気がつくと、あたしの必死な答えなんか聞いていなかったかのように、
亜里紗と彩乃は別ページの「メイク特集」に移っていた。
やたらと濃くてラメラメの、ブルーや緑のアイシャドウなど宇宙人のようだし、
そんなにまっピンク色の頬にしたら、おかめだってビックリだ。

 あたしはそう思いぞっとしたが、普段から巧みな化粧をほどこしている2人の、
お手本になっているコーナーだ。
いつか私服の彼女たちに会う日があろうものなら…
この通りの恐ろしい顔を、あたしは目の当たりにすることになるのだろう。

 そこまで考えるとタメイキが出た。
それも2人にバレないよう、そっとつかなければならない、気を使いまくったタメイキ、だ。
さらにあたしは、これを、彼女たちを…見るだけでは済まされない。
あたしもこの雑誌を参考にして、ばっちりメイクをしなければならないのだ。
自分でもしない方がマシだと思いながらしなければならないメイクなんて…
そこに一体、何の価値があるのだろう?

 あたしがこうやって自分の気持ちを隠しながらひっそり生きることに専念しているうちに、
あたしはあたし以外にも、同じようなことをしている子がグループにいることに
気付いてしまった。
裕美に奈緒美、それに直子だ…
あたしは彼女たちにすらわからないように、完璧に演技をしていた。

 でも、彼女たちはつめが甘かった。
あたしの演技は、そしておそらく彼女たちも、
このグループから追い出されるのを怖がってしていることだ。
そんな彼女たちの、嘘をつくときの心の強張りを、あたしは知っている。
そんなドキドキしている彼女たち、
顔にうっすらと影のできている彼女たちそれぞれの演技をあたしが見破ってしまったことによって
実際あたしがグループに入ってから、裕美と奈緒美はグループから抜け、
直子は学校にすら来なくなった。

 裕美と奈緒美は別々のグループに入れてもらっていたが、あたしにはわかっていた。
彼女たちが、新しいグループで、決して歓迎されているわけではない、ということを…


次へ

home








inserted by FC2 system