そう怒鳴った理絵がいきなり、あたしの差し出した手の上に載っていた、 美雪のプリ缶を叩いて落とした。 しーんとした空気が十秒…くらいは教室中に流れただろうか。 だが、誰とともなく、今していた話の続きを始め、教室はまたガヤガヤとなった。 ただ、あたしと理絵だけが、見つめあったまま、口を開かないでいた… 「沙苗には失望した。ガッカリだよ。」 ポツリと、しかしはっきりとした口調で理絵はあたしに向かって言った。 あたしには、さっぱり理解ができなかった。 「え…?何のこと?」 精一杯のあたしの言葉だった。 それ以上の言葉は、何ひとつあたしの口から沸いてはくれなかった。 「何のことかわかんないくらい、沙苗にとっては些細なことでも、 それによって心に深い傷を負っちゃう人だっている、ってことを覚えていた方がいいよ」 胸の、いやなドキドキだけがあたしの耳に届く。 体中が歪んでしまいそうだった。 あたしはその場で…こおりついてしまった。 あのときの言葉を残したきり、理絵はもう二度とあたしと口を聞こうとしなくなった。 グループのあたし以外のメンバー…美里、由利、沙織は慌てていたが、 三人の中で、あたしと理絵のどちらにつくか、の話はついていたらしい。 彼女たちは迷わずに…理絵を選んだ。 排他的で威張っていて自分をリーダーだと思っているあたしなんかに比べたら、 誰とでも仲がよく、勉強もスポーツもよくできて、 人の悪口を言うのが嫌いで、いつも明るい理絵を人が選ぶのは当然だった。 今まであたしは何人もの人をはぶってきたが…実際自分がはぶられたとき、 どうしたらいいかなんて全くわからなかった。 あたしには他に身を寄せる場所もなかったので…、 とても情けないことではあるけれども、学校に行けなくなってしまった。 勉強にもどんどん追いついていけなくなり、とうとうあたしはその年、進級することができなかった。 もうその学校に行き続けることもできるわけはなく、 あたしは地元の都立の別の高校の編入試験を受け、そこに入れることになった。 新しい学校でのあたしの試練はただ一つ… もう、グループからはぶかれたりしないこと、だ。 理絵は大事な親友だと思っていたから、それもあってなかなか立ち直ることはできなかったけど、 でも、それよりあたしがつらかったことは、はぶかれて、 誰もあたしを相手にしてくれなかったことだったのかも知れない。 グループの子としか話したこともなく、話さなくてもいいと思っていたあたしにとって、 他のグループのこといまさら話せる訳がない。 そうしてあたしは、一人ぼっちになってしまったのだ―… もう、二度とあんな思いはしたくない。 これからは、あんなことにはならないよう、無難に生きていこう。 誰の悪口も言わずに、穏やかに生きていこう、 そう思っていたのに…、どうしてあたしはまた、ギャル系のグループに入ってしまったのだろう・・・ やはり格好だろうか。 都立だから、と思って今まで通りに来てしまったら、 ギャルグループボス、みたいな亜里紗に気に入られてしまい、 あたし自身はめちゃくちゃ戸惑っていたのに、なぜかあっさり中に入れてもらえた。 ギャルの方が、中で残るのが大変なことは知っている。 でも、あたしは誰でもいいから友達が欲しかった。 そういう意味でギャルは、そうでない子たちよりくっつきたがる性質を持っているから、 仲良くなるまでは簡単だった。 ただ、それから先を続けていくのが辛かっただけのこと、だ―… 今までと同じ過ちを繰り返さないためにも、グループ外の子とも話そうと思ったが、 それもやっぱり…どうしてもうまくいかない。 必要以上に、過度に緊張してしまうのだ。 年こそ1個違いではあるが、同じ人間の同じ性別の人相手に、 どうしてこんなにもドキドキするものか…と自分を呪った。 だが、できないものはできなかった。 |