いつものように夜、彼女の家の下で彼女を待っていると、
楽しそうな彼女の声が聞こえてきた。
友達でも連れてきたのだろか、と興味津々で待ち構えていた僕は、
呆然としてしまった。
友達じゃない、いや、友達という可能性もなくはない。
でも、男だ。とにかく彼女が連れてきた相手が、男だったのだ。

それも背がやたらと高く、誰が見てもそうだと認めざる負えないような、
美形の――

年は彼女と同じくらいだろうか、少し上だろうか、
といったところ。
彼女は少し頬を赤らめ心から彼との会話を楽しんでいることが
遠くからでもよくわかった。
胸がざわつくのを感じた。
苦しい…ここから逃げたい。
強くそう思った。
でも、二人から目がそらせない。
どんな話をしているのだろう…
そして何より、これからどうするのだろう…

そこまで考えて自分が青くなるのを感じた。
いや、きっと彼は彼女を駅からここまで送ってきただけだ。
そうに違いない。
そう言って自分を納得させようとしていた。
だが、それを確かめるまで帰ることはできない。

二人が上に行ったっきり、彼はなかなか出てくる気配はない。
送ってもらったのだ。お茶くらい出すに違いない。
いつもなら30分そこらで帰るところだが、
どうしても足が帰りたくないと言っている。

彼が帰るのを見届けて出ないと、帰れない。
僕の心がそう誓うのを聞いた。

だが、1時間経っても2時間経っても彼は姿を現さなかった。

空が明るくなってきた。

心はざわつくのにも疲れたらしく、鈍く痛みを感じていた。
彼が彼女の家に泊まったという事実を認めたくない自分をおさえて、
彼が出てくるのを必死に待っていた。
鳥が鳴きだしてきた頃、時計を見たらもう6時を回っていた。
かれこれあの男はもう10時間も彼女の家にいることになる。
許せなかった。あの男を心から憎いと思った。
憎い…?

そして気付いた。
自分が彼女に抱いてる、恋心の存在を。
僕は、典子が好きなんだ。
知らない間に、いや、初めて会ったときからか?
僕は彼女が好きだったのだ。

気付いてしまってから唖然としてしまった。
僕が、彼女を好き?
もう一度自分に問うた。
今更すぎ、だ…




次へ

home























































inserted by FC2 system