呼ぶ声はいつだって

「ヒロー!!!!!」
私は思いっきり叫ぶ。
あの星々に…、向かって――…

でも、ヒロを呼ぶその声は、遠い空に一瞬で吸い込まれていき、
ただ私のかなしみをより一層かきてるだけだ。
ヒロはもう帰ってこない。
もう、ヒロに触れられない。
触れてもらうこともできない。
もう私は、誰によっても肯定されない、そんな存在になってしまったんだ。

私とヒロが出会ったのは、ある歌手のコンサート会場でだった。
お互いに1人で来ていたヒロと私は、隣の席だったため、
そのとき少しだけ話をした。
それからどのようにして親しくなったかは、
今となってはもうはっきりとたは覚えていない。
ただ、「もしよかったらこれからの勇一さんのコンサートには一緒に行こう」
と約束をして連絡先を交換したのだ。

同じ歌手のファンなら、仲良くなるのも早い。
それから何度一緒にコンサートに行っただろう。
私たちはよく笑いあった。
まず何より勇一さんの話で、そして日常の些細な話でも。
勇一さんのファンの女はみんなライバルだと思っていた私には、
勇一さんファンの友達が全くといっていなかった。
ヒロが男だったから、私はこんなにも仲良くなれたのかも知れない。
今思い返してみれば、勇一さんを好きな男の人に会ったのも、実は初めてだったんだな。

ヒロ、大好きなヒロ…


そんなヒロは――
もう、この世にいない。

ブルっと寒気がして両手を腕にあてる。
体中がそうとう冷え切ってしまったようだ。
コートの前のボタンをしっかりと留める。
そして、思い出すあの日のこと。
二度と戻れない、でも決して、私の人生から消すことができないだろう、あの日…。

その連絡はあまりにも突然だった。
私は信じられなかった。
いつもメールはその日のうちに絶対に返してくれ、
1時間以上返信までに時間が空くと必ず
「遅くなってごめん」
とつけてくれる、男の子にしては珍しくマメな人だった。

そんなヒロに、「具合はどう?」と3時間ほど前にメールをしたが、
返事が返ってこなかった。
おかしいな、と思った。

とてつもない不安が胸をよぎるのを感じたが、
それに気付かないふりをしようと必死に抵抗をした。

ヒロからのメールがきっとくると信じて待ち、
日付を超え、2時まで、私は起きていた。
ヒロが好きだった。
心から好きだった。
誰よりも、ヒロを必要としている私がいた。

「遅くなっちゃってごめん。
いやー、やっと寝付けたかと思ったら今度は起きられなくてさー。
今度具合が悪くなったときは無理言ってお前に仕事休んでもらってでも、
看病してもらっちゃお〜」
そんな、ちょっとふざけた、
でも私への配慮がちゃんとなされている彼からのメールがくるのを…
私は必死の思いで願いながら待った。


次へ

home


















inserted by FC2 system