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次の昼頃、メールが着ていた。
前の日遅くまで起きていた私は、そのメールに起きてから気付いた。
その日が休みでよかった。
メールの内容は、こうだった。
「遅くなってごめん。
何か胃腸系の調子が悪いらしくて、暫く入院することになったから。
連絡とりにくくなるかと思うけど、たいしたことないみたいだから、
まぁ、すぐ退院できると思う。
心配かけてごめんな。」
全文にざっと目を通すとすかさずヒロに電話していた。

まだそこまで携帯電話が普及していなかった頃から、
何度公衆電話をプッシュしたことだろう。
アドレス帳から呼び出さなくても自然と動くヒロの番号。

ここ最近…一週間くらいのことだろうか、ヒロはずっと体調が悪いと言っていた。
ただ、ヒロ自身元々体が弱かったらしく、しょっちゅう具合は悪くなっていたし、
頭痛薬は手放せないと言っていた。
今回のことも、ヒロの口から「いつものだと思うから大丈夫」と聞いていたのだ。
その言葉を鵜呑みにしてしまい、そこまで心配はしていなかったのだ。
だが、それが間違いだったのだ――…

それにしてはヒロの様子も思わしくなさそうだったし、
具合が悪い、という頻度がいつもより多かったことから、
これは珍しいと心配し、私がヒロに病院に行くように勧めたのだ。
ずっと下痢がひどいと言っていたヒロは、消化器系の病院にいくことに決めたようだった。
私もついていけばよかった。

仕事が忙しくても、他の誰に迷惑をかけることになったとしても
とにかく行けばよかったんだ…。

いまさら後悔しても遅いことはわかっている。
でも、ヒロのあの屈託のない笑顔を思い出すと、
胸が痛んで痛んで仕方がない。
後悔しても仕方ない、今の私にできることは、天国にいるヒロに、元気な私を見せて、
安心してもらうくらいしかできない、それは…十分すぎるほどわかっている、
わかってはいるんだけど――

あの日あれから、「病院どうだった?大丈夫?^^」とメールをした私。
それに対する彼からの返事。

入院するから――

それが何を意味するか、私にはわからなかった。
ただ、少しビックリはした、ホッとした、というのも事実だ。
ヒロをちゃんと診てくれる…
そのことに安心していたのだった。

でも、なぜだろう、昨日からずっとしていた嫌な予感が胸にずっとつかえている。
いや、お医者さんが診てくれるのだから大丈夫、そう何度も何度も自分に言い聞かせる私。

それなのに…

プルルルルル…


友達も決して多い方ではなく、
めったに通話をしない私の元にかかってくる電話、というのは極端に少ない。
ヒロがかけてきてくれる、「ちょっとお前の声が聞きたくなってな」という電話の他に、
かかってきたことがあっただろうか、というくらい本当にかかってこない私の携帯。
でも、ヒロからじゃないことははっきりしている。
彼からの電話の着信音は、鬼束ちひろの「Sign」だからだ…

電話をとると、向こうの一方的な話し声が耳を通過した。
頭が真っ白になった。
はじめの2文くらい聞いて、あとは全く頭が働かなかった。
耳も聞こえなかった。


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