5

それからというもの、私はどうしようもなく切なくて、
あなたに会いたい夜は、私は星を見に行くことにしている。
何も知らずにキラキラと光る星、を見上げ思い出に浸っていられるその瞬間だけ…
あなたがそばにいてくれる、気がしたから―。

今思い出してみれば、私はヒロの前でしか、上手に泣けなかった。
でも、今、こうしてこの星空の下、ヒロのことを思い出して、こんなにも泣いている私がいる。
あなたさえいれば…、星なんか…、星なんか、見えなくていいのに・・・・

そしてまた涙が頬を伝うのを感じた。
私は泣く場所を失った。
だからこの星の元で泣いている。
ヒロがいれば、星なんか、見えなくていい。

「ヒロー!!!!」

思い出したように、私はあなたの名前を呼ぶ。
でも、私の声が、あなたに届くことは、ない。
そしてまた、あなたの声も私には届かない。
見ていてくれるのかすら、私にはわからない。
こんなにも弱くて脆い私の存在を認めてくれたあのヒロは…
本当にもういないの?
でも、でも…どうか、こんな私のことをどうか…必要としていてほしい。
今でも私はあなたに必要としてもらえているはず。
そう思わないと、もう私、これ以上生きてなんかいられないよ…。

ヒロがまだ生きているんじゃないか、そう疑っている。
彼がいなくなってからのぼんやりとした、何というか曖昧なままの毎日は、
私をより一層一人ぼっちにするものだった。

もう、私には、これ以上望むものなど何もなかった。
“ヒロに帰ってきて欲しい”この思いを大事にして、
私が勝手に”ヒロ”と命名した星の、
かすかな振動、輝きを見るたびに…私の目からこぼれるものがある。
その涙の温かさに私は癒され、自分の”生”を感じる。
ヒロが失ってしまった、命の温かさだ。

ヒロはもう帰ってこない、そうやっとちゃんと本当に理解できたのは、
葬式もすっかり終わってしまってから、彼にメールを送ったときだ。

「ヒロ…?どうしたの?もう戻っておいでよ。みんな待ってるよ」

そう送ったメールに対する返事がなかったとき、
私は彼がもういないとやっと理解することができた…。
彼が戻ってくるという期待、戻ってくる奇跡などは、
結局また、私からヒロを奪い、私を一人ぼっちにし、
私のことを見捨てるだけだ。
こんなにも愚かで無力で何もできない私、こんな私をさ、
ねぇ、ヒロ…どうかあなただけは、ずっと覚えていてね。

どれだけの意味があるだろう。
私がここで彼の名前を呼ぶことに。
どうか、この声が届いていて。
この、星空しかきれいじゃない、この町で、場所で。
私は、いつまでも叫んでいるから。
あなたに届くまで…何度でも、何度でも。
今も…そして、いつまででも…。

「ヒロー!!!!!」

そして私は今日も涙が止まらない。
誰か、誰でもいいからお願い…
私に…泣く場所をください。

そのとき、どこからか声がしたきがして顔をあげた。
あの、懐かしい声が。
普段堂々としている分、そのときだけ照れるのか、気弱そうな発音で私の名前を呼ぶ、
ヒロの声が。

“あ…けみ……”





今日も私は…、涙が止まらない。


あとがきっぽいものへ

home


















inserted by FC2 system